村上春樹の作品の魅力とは? 元・村上春樹研究者がおすすめ作品と魅力を紹介してみた

小説

こんにちは。本の虫にっき管理人のdonutです。
今回の記事では、村上春樹の作品の魅力について、じっくり解説していきます。

みなさんは、村上春樹さん(以下、敬称略)の作品を読んだことがあるでしょうか?

村上春樹は1970年代後半ごろから日本の文芸界での活躍を始め、
現在でも精力的に作品を発表し続けています。

最新作は2023年4月に発表された長編『街と、その不確かな壁』で、
ノーベル文学賞が発表される季節になると毎年、
「今年こそ村上春樹がノミネートされるのではないか?」と、
話題になっているのを見かけることも多いのではないでしょうか?

このように、村上春樹は言わずと知れた日本を代表する小説家の一人で、
最も売れた作品『ノルウェイの森』は、
国内で累計1000万部、海外でも30ヵ国以上で翻訳された、
大ベストセラー
となっています。

「ハルキスト」と呼ばれる熱狂的な信者がいる一方で、
「村上春樹の作品は難しすぎてよくわからない…」とか、
「つまらない…」という声もよく耳にします。

今回はそんな村上春樹の作品について、
一体、どんなところが面白いのか、どこが作品の魅力なのか、
おすすめの作品は何か
、元・村上春樹研究者の私が、
紹介していこうと思います。

ぜひ最後までお読みいただけたら嬉しいです!

1.私が村上作品にハマったわけ

そもそも、私が一番最初に村上春樹の作品に触れたのは、
小学生の頃、『羊男のクリスマス』という作品を読んだのがきっかけでした。

こちらの作品は村上春樹の作品によく登場する「羊男」という人物が、
クリスマスの時期に様々なトラブルに巻き込まれ、
個性豊かなキャラクターに出会いながら、
クリスマスを祝うというファンタジー作品で、
当時小説を読むのが大好きで、たくさんの本を読み漁っていた私は、
ファーストコンタクトで、
「なんだろう? この小説は不思議だ」という印象を得たのでした。

そこで、一気に気になったわけではなく、
自宅に『ねじまき鳥クロニクル』という単行本が書棚に置いてあり、
気になって手に取ったところ、小学生の自分が読むには難しすぎ、
衝撃的かつセンセーショナルすぎて、
とても最後までは読み切れず、自分にはまだ早いもの…だと感じていました。

こうした時を経て、最初に心から好きになった村上春樹の作品は、
中学生時代に読んだ『ノルウェイの森』でした。
当時の自分にとっても、変わらずその内容は難しかったのですが、
それよりもそこで表現されている、
内容の豊かさ、比喩表現や文体の美しさ、ストーリー展開に引き込まれてしまいました。

最初に読んだ時に衝撃を受け、その後20回以上は読み返す作品となりました。
そして、読むたびに新たな印象を私に与えてくれます。

この作品は、私にとって「愛するとは一体どういうことなのか?」
何度も悩んだ時にヒントを教えてくれる、
心の琴線に沁み渡るような奥の深い作品でした。

そして、大学生になると、文学部に進学したこともあり、
一気に村上春樹の作品を読み始めます。

何度も挫折した『ねじまき鳥クロニクル』、
一世を風靡した『1Q84』、
ストーリー展開のあまりの面白さに一気読みした『世界の終りとハードボイルドワンダーランド』、『海辺のカフカ』…
そして、短編やエッセイも読めば読むほど、
その作品世界が持つ奥深さと豊かさにのめり込んで行きました。

そうして私は、
大学の卒業論文で『ノルウェイの森』をテーマとすることに決め、
さらに文学研究の面白さに取りつかれた私は、
大学院へと進学することを決め、
さらに修士論文でも村上春樹を題材に扱うことを決めたのでした。

結果、5万字以上の論文を書き、
3年間以上を村上春樹の研究に捧げることになりました。

その中で、全てではありませんが、
8~9割方、村上春樹作品を読みました。

私は「ハルキスト」と呼ばれるような、
盲目的な村上春樹ファンではありませんが、
それでも、村上春樹作品は読者を惹きつけてやまない強い魅力を持っていると感じます。

次の章では、そんな私を虜にした、
村上春樹作品の魅力について解説していきます。

2.村上春樹作品の魅力とは?

ストーリー展開の面白さ

「村上春樹の作品が難しい…」「読んだことがない」という方には、
あまり知られていない事実かもしれませんが、
実は村上春樹の作品はファンタジーが多いのです。

文学研究の中では、
スターウォーズや宮崎駿監督によるジブリ作品と比べられることも多いほど、
内容はわかりやすく、
特に長編はいわゆる近年だと、新海誠監督の『君の名は。』のような、
”ボーイミーツガール”や”冒険小説”的な、
ファンタジーの世界観で構成されているものも多いです。

例えば、『1Q84』や『世界の終りとハードボイルドワンダーランド』、『海辺のカフカ』など、
村上作品を代表する長編小説も実際は、
冒険小説的な非常に読みやすいストーリー展開になっています。

こうした特徴は作家である村上自身が意識的に構成している部分でもあり、
「ストーリーテリング」と呼ばれる物語展開は、
かなりそれ自体が面白いように作られています。

「純文学で難しそう」と考えられがちな村上作品も、
まるで児童文学やファンタジー作品を読んでいるような、
わくわくとした感情で、読めるというのが一つの魅力
なのです。

心情描写がとにかく深い!

続いての、村上作品の魅力は、「心情描写の深さ」です。
これは、私が村上春樹の小説が好きな、最も大きな理由の一つでもあります。

私は元々小説が好きで、村上春樹以外にも、
これまで様々な作家の方の作品を読んできたのですが、
感情移入という点で圧倒的に村上作品は没入感が強いと感じています。

村上春樹は自ら「自身の無意識を掘り下げるように物語を紡いでいる」
という意味のことを何度もインタビューの中で語って来ており、
創作活動をするうえでも、いかに自身の内面性を掘り下げ、
作品世界の中へ落とし込むかを重視していることがわかります。

こうした意識のもとに書かれた村上作品を読むと、
自分が日常の中でうまく言葉にできない、
けれど大切なことを拾い上げて表現してくれるように感じたり、
思考や感情が心の奥深いことで一段とクリアになったり、
様々な登場人物たちの心情に強く共感できたりする、
小説を読む醍醐味を一身に感じることができます。

また、村上春樹作品のテーマとして、
誰もが人生の中で一度は向き合うことになる、
「大切な人の喪失」や「愛」、「死」、「再生」という重い命題を扱っていることも多く、
登場人物たちの感情の揺れ動きや行動を通じて、
人生経験が深まったようなそんな気持ちにもなります。

村上春樹の作品を読めば、
人生の中で大切にしなければならない、
「生きるヒント」や課題を与えられような、
唯一無二の読後体験を得ることができるのです。

文体のユニークさ

さらに、村上作品の魅力には、「文体のユニークさ」もあります。
元々、村上春樹が日本の文学界に登場した際は、
その文体が非常に新しかったことが賛否両論を巻き起こしながら、高い評価を得ました。

日本文学の主流である重たい文体ではなく、
むしろあっさりしていて、ジャズのような軽妙な語り口が特徴だったのです。

主人公の話し方も特徴で「やれやれ」という言い回しがよく登場します。

軽くリズムの良く、読みやすい文体という魅力だけでなく、
やはりここまでにも述べてきたような、
的確で深い心情描写をすることもあり、
どこか軽く力の抜けたリズム感と、
密度の高い描写の使い分けが絶妙
なのかもしれません。

また、その軽妙な語り口は特に「エッセイ」で楽しむことができます。

”村上春樹=小説”と思われがちですが、実は「エッセイ」も非常に面白く、
どこか力が抜けていて、
温かみのある人柄を感じられるような優しい文体が堪能できるのです。

比喩や登場人物が個性的で面白い

今回ご紹介したい村上作品の最後の魅力は、
「比喩や登場人物の個性豊かな面白さ」です。

村上作品の中には、様々な謎に満ちた愛嬌あるキャラクターが登場します。
例えば、複数の作品で登場する有名なキャラクターは「羊男」でしょう。

彼は羊の皮を被った、臆病な人間で、
主人公の前に時折姿を現わし、物語を前に進めるような重大なヒントをもたらしたり、
情けない一面を見せたり、憎めなくてミステリアスな性格を見せてくれます。

また、村上作品には、「羊男」以外にも、
「かえるくん」、「ねじまき鳥」、「鼠」、
犬・猫・いるか・牛・猿などなど、
様々な動物をモチーフとした個性豊かなキャラクターが登場します。

私がその中でも、最も好きなキャラクターは、
『ねじまき鳥クロニクル』『1Q84』に登場する「牛河」という醜い中年男です。
この人物は悪役として描かれながらも、饒舌でどこか憎めない、
ピエロのような愛嬌のある人物として登場します。
主人公の邪魔をし、恐ろしい雰囲気を醸し出しながらも、
思わず感情移入してしまうような切ない二面性を持った人物でもあります。

また、比喩の面白さですが、
例えば、『スプートニクの恋人』という女性同士の恋愛を描いた作品では、
こんな印象的な場面から始まります。



「22歳の春にすみれは生まれて初めて恋に落ちた。
広大な平原をまっすぐ突き進む竜巻のような激しい恋だった。
それは行く手のかたちあるものを残らずなぎ倒し、片端から空に巻き上げ、理不尽に引きちぎり、完膚なきまでに叩きつぶした。」

『スプートニクの恋人』(講談社、1999年)

さらに『ノルウェイの森』でも、
主人公が女の子に「私のこと好き?」と尋ねられて、
こんな風な言葉を返します。



「世界中のジャングルの虎がみんな溶けてバターになってしまうくらい好きだ」
「春の熊くらい好きだよ」

『ノルウェイの森』(講談社、1987年)

このように、とてもユニークで、豊かなイメージの膨らむウィットに富んだ比喩表現が、
ありとあらゆる作品に散りばめられているからこそ、
村上作品は面白いのです。

今回、紹介したポイント以外にもたくさんの魅力が村上作品にはあります。
ぜひ、あなただけの魅力を見つけてみてください!

3.おすすめの村上春樹の作品

さて、ここからはおすすめの村上春樹の作品について、
5作品を紹介していきます。

長編

『ノルウェイの森』

村上作品のおすすめとして、この作品は外せません。

先にも述べた通り、私が村上作品にハマる最も大きな転換点となった作品で、
何度読み返しても、その表現の豊かさ、内容の奥深さ、感情の揺さぶられ方には、
いつも新鮮な驚きがあります。

こんなにも深い印象を与えてくれる小説はめったにないのです。

あらすじは、主人公の僕(ワタナベ君)と、
二人の美しい女の子・直子、緑との出会い~喪失を描くお話です。
主人公の僕は幼馴染の美しい少女・直子に恋をしますが、
彼女はあることをきっかけに心を病み、僕の前から姿を消してしまいます。

喪失感を抱えた僕の前に、直子とは正反対の少女・緑が現われ、
僕は緑に心を惹かれるが、一方で直子のことも忘れさることができず――。

恋の瑞々しい感情の揺れ動きと、
「愛や恋」を超えた人間のどろどろした欲望、
生きるとは何か、愛するとは何か、失うとは何か、
人生の大切なことがこの作品にはすべて詰まっているように感じます。

どんなに言葉を尽くしてもこの作品の良さは語り切れません…!

読んだことがない人は、ぜひこの機会に読んでみてください。

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『世界の終りとハードボイルドワンダーランド』

こちらの作品は、SFファンタジーの世界観で構成された作品です。

近年発売された長編『街と、不確かな壁』は、
実はこの『世界の終りとハードボイルドワンダーランド』と世界観が共通した作品です。
読みやすさは今回ご紹介する『世界の終りと~』なので、
こちらをぜひおすすめします!

作品世界の中ではなんと主人公が気になった女の子のために、
地下の暗黒世界を冒険したり、
得体の知れないものと闘ったりします!

所見では分厚くて手強そうに見える本作ですが、
一度ページをめくってみれば、
続きが気になって仕方がない冒険が展開されています。

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短編

『女のいない男たち』

続いては短編のおすすめ作品です。

『女のいない男たち』は2014年に刊行された短編で、
1980年代頃から活躍している村上春樹の中で、
比較的近年にあたる作品の一つです。

この中に収録された「ドライブ・マイ・カー」は映画化され、
カンヌ国際映画祭でも脚本賞を受賞
しました。

本作でも、村上春樹ワールド全開で、
ミステリアスかつ味わい深い豊かな比喩表現が織り交ぜられた本作には、
読むだけでぐっと胸を摑まれてしまう短編が載っています。

初めて読むなら読みやすく、かつ村上作品特有の世界観も楽しめる、
こちらの短編がおすすめです。

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『神の子どもたちはみな踊る』

こちらは、2000年に刊行された、
村上春樹作品の中では中期にあたるものです。

それまでの空想的で、どことなくユーモラスな短編から一変して、
この小説では、1995年に起きた阪神淡路大震災と地下鉄サリン事件が題材となった、
「神の子どもたちはみな踊る」や「かえるくん、東京を救う」など、
非常に象徴的な短編が収録されています。

ファンタジーや、内面的な作風を持っていた村上春樹が、
この頃から社会に対して発信を強めて行った時期にもあたり、
その作風の変化が読み取れる短編集になっています。

村上春樹作品特有の、比喩表現や幻想的な世界観はそのままに、
社会派のテーマも織り込まれている意欲作
で、
こちらもおすすめできる1冊です。

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エッセイ・ノンフィクション

『職業としての小説家』

最後は、エッセイ・ノンフィクションジャンルのおすすめです。

村上春樹といえば、小説というイメージもあるかもしれませんが、
意外にもエッセイなど多く意欲的に発表しており、
旅行記『遠い太鼓』や、
読者からの質問に答える『村上さんのところ』
自身の執筆活動とマラソンの趣味についての『走ることについて語るときに僕の語ること』など、
小説に負けず劣らず、魅力的な名エッセイがあります。

特にここでは、村上春樹が自身の作家としての姿勢や創作について、
余すことなくじっくり語った『職業としての小説家』をおすすめします。

読みやすい文体はそのままに、
孤高の作家・村上春樹がどんなことを考えながら、
創作に取り組んでいるのか

そのスタイルを垣間見ることができます。

装丁も写真家の荒木経惟が撮影したもので、
非常にスタイリッシュです。

村上春樹について作品も楽しみつつ、
作家としての個人について知りたい
という方にはぜひおすすめしたい1冊です。

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4.まとめ

今回は、村上春樹の作品の魅力、おすすめの作品について紹介してきました。

いかがだったでしょうか?
最初は難しそう…と思っていた方も、
実はその作品の内容が「ファンタジー」や「ボーイミーツガール」であると聞いて、
驚く部分もあったのではないでしょうか。

手に取りづらいと思っている方も、
なんとなく難しそうだからと敬遠していた方も、
絶対読んで損はないと自信を持っておすすめできる作品ばかりです。

せひこの機会に挑戦してみてくださいね。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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