こんにちは。本の虫にっき管理人のdonutです。
今回の記事では、現在漫画編集者の私が、
新人漫画家さんや漫画家さん志望の方に向けて、
企画の立て方やネームの立て方、編集者へのPRの仕方について、
解説していきます。
ここでは、偉そうに「解説していきます」と言いましたが、
私はまだ漫画の編集者としては若手です。
ただ、毎日漫画家さんや新人の方と企画やネームについて、
やり取りしているうちにわかってきたことがあるので、
今回の記事では、そんな「編集者はここを見ている!」とか「もっとこうしたら良くなる」という、
漫画のポイントについて紹介します。
漫画を描き始めてまだ間もない方や、
中堅の方にも何かヒントになれば幸いです。
1.企画の立て方
まずは「企画の立て方」についてです。
漫画において、一番大事なのはなんといっても「企画」だと思います。
漫画における「企画」とは、どんなコンセプトのお話で、
どんなキャラクターが登場して、どんなお話が展開されるのか、
ざっくりとした全体の設定のことです。
どんなに作画が上手だったとしても、
この企画が読者の求めているものからズレていればそれは誰にも読まれないものになってしまいます。
そこで、「企画」が一番大事だということを念頭に置いて、
漫画を作っていくということを忘れないでください。
コンセプトを明確にする
企画を立てる時、
ヒントになるのが「何を描きたいか」または「どんなキャラクターを描きたいか」です。
どちらが先になるかは、作家さん次第だと思います。
「何を描きたいか=コンセプト」は、
例えば、「癒されるキャラクターもの」とか「人外×人間の恋愛もの」、「異世界転生もの」のような感じで、
作品の大元になる軸です。
これはどういう風に決めるかというと、
「作家本人が描きやすい、または描きたいもの」、
「一定数の読者がいて、ニーズがあると考えられるもの」、
「話題や時期性を捉えていて、今ウケが良さそうなもの」などの角度から考えていきます。
作家が描きたいものや描きやすいものでないと、
そもそも作品を続けていくことが難しくなりますし、
また、どんなに作家が好きでも、読者がいないものを作っては意味がないからです。
また、コンセプト自体は「王道」でも良いのですが、
必ずその作品の「独自性」「オリジナリティ」がどこにあるのかは意識しましょう。
もしあなたの作品が「異世界転生の冒険もの」というジャンルであれば、
今、山ほど類似作品があり、大ヒットが出ているジャンルなので、
読み手側からしたら、あなたの作品でなくとも良いわけです。
むしろ、その場合は、よりヒットしている作品を手に取るはずなので、
「独自性」や「オリジナリティ」がないと、
先行作品に勝つことができないのです。
ですので、以上述べたようなところから、
ぜひ「コンセプト」を立ててみてください。
行き詰った時は周囲の知人や家族に「こんな企画を考えているんだけどどう?」とか「面白そう?」と聞いて、
第三者のストレートな意見を聞く事も非常に参考になると思います。
キャラクターを決める
続いてはキャラクター決めについて、解説していきます。
まずは、「キャラクターデザイン」略して「キャラデザ」についてです。
意外とこれは軽視されがちかもしれないのですが、
キャラクターの見た目、というものは非常に重要です。
特に登場回数が多い、メインのキャラクターであればあるほど、
多く読者の目に触れるわけです。
そのキャラクターが魅力的であれば、
作品全体の魅力を底上げします。
一方で、「あまり好きじゃないな…」とか「キャラクターが気になってお話が入って来ないな…」という見た目だったら、
作品全体の質を損ねてしまいます。
どんなジャンルでも構わないのですが、
ヒットしている作品や多く読まれている作品は、
どれも非常にキャラクターの外見が考え抜かれています。
読者の邪魔をしないフォルムで、
かつ、好印象に映るようになっています。
見た目を決める時は、
・どういう属性を持たせたいのか
・そのキャラクターに好印象が持てるか
・類似のキャラクターは?
などの観点から考えていくと良いでしょう。
「属性」とはキャラクターに持たせたい特徴のことを指しています。
例えば、「子供のようにかわいくしたいのか」、
「眼鏡のクールなビジュアルのキャラにしたいのか」、
「お姫様みたいな外見にしたいのか」、
…などなど、作品におけるキャラクターの立ち位置やどんな性質を持たせると人気が出そうかを考えましょう。
また、キャラデザを決めたら、「名前」なども決めていきます。
「名前」は同姓同名の別のキャラクターがいないか、
表したいキャラクターイメージが的確に表現できる名前かどうかを考えながら決めると良いでしょう。
ストーリーラインを決める
続いて、ストーリーを考えて行きましょう。
ストーリーも漫画を作るうえで非常に重要です。
私は一般の方から漫画を公募して、
受賞者を決める下読みも担当しているのですが、
良い作品と△な作品はここが大きく分かれていることも多いかもしれません。
初見で読んで、
全くストーリーがわからないもの、世界観が読み取れないもの、何をしたいのかよくわからないものもあり、
そういうものは、
それ以上に惹かれる何かのポイントがない限り、上にあげることが難しいと感じます。
案外、「自分の作品を読んで、何か光るところを見つけて!」という、
あえて厳しい言い方をすると、一方的に読み手に汲み取ってもらおうとする作品も多いのです…
あなたが読者だった時、
そういう作品を読んで、果たして面白いと思うのか、
そういう視点から考えると良いかもしれません。
もちろん一部の作品の中には、
「よくわからないけど面白いもの」や「明確なストーリーラインがないもの」もあります。
ただ、それはすでにファンの人が多くついている作家さんの作品だったり、
それを凌駕するコンセプトや、読者の心を捉える何かがある作品です。
まずは、「正しい型」を理解するという意味で、
どういうストーリーラインにしたらわかりやすく、
かつ面白く、読み手側に心を動かしてもらえるか、そういう”サービス精神”があると良いと思います。
また、ストーリーラインもコンセプトと同様で、
できれば「オリジナリティ」を意識しましょう。
「幼馴染と恋をする話」の王道をやると、
これもまた山ほど先行作品があるので、
その作品でなくともよく、選ばれる理由を一つ失ってしまいます。
「オリジナリティ」は難しくなくとも良いのです。
もし浮かばないという方は、要素の掛け合わせをしていくと、
簡単にオリジナリティある設定が作れると思います。
「幼馴染と恋をする話」でも、
例えば「5歳年下の」、「実は男の子だと思っていた」、「友情が恋に発展していく」、
「社会人になった後の二人の話」という風にしていくとあっという間に、
なかなか先行作品のない設定を作ることができます。
ネームを作る
まずは見よう見まねでネームを切ってみる
設定が決まったら、「ネーム」と呼ばれる下書き原稿を作っていきましょう。
漫画家さんにとっては、ネームは当たり前のものですが、
一般の方にとっては馴染みがあまりないものかもしれません。
ネームとは、漫画における下書きです。
直接、作画に入るのではなく、
まずは簡単なあらすじを決めて、
コマ割りをし、どこにどんなセリフが来て、どんな構図で作画をするのか、
あたりをつけていきます。
ネームのイメージが湧かない方は、
「ネーム 漫画」など検索すると、実際のネームの例がたくさん出ているので、
そちらを参考にしてみると良いかもしれません。
ネームはかなり慣れが大きな部分もあり、元々漫画を読むのがお好きな方は、
お手元の漫画など、参考にしつつ、コマ割りやシーンなどを考え、
実際に手を動かしていくと良いと思います。
プロットを作る
また、ネームを描くのと同時並行で、プロットを作っていきます。
ここで言うプロットとは、全体のストーリーラインとは別に、
そのお話で描く物語の大体の概要を決めていくことです。
全体で展開するストーリーに対して、
今回のお話ではどのような物語を見せたいかなど、
まずは考えながら描いていくと良いと思います。
プロットは非常に重要です。
なぜなら、どのようなプロットにするかによって、
そのお話の見え方が全く変わって来てしまうからです。
考えているプロットが面白ければ、
そのネームもおそらく面白いものになるでしょう。
しかし、プロット段階で面白いものでなければ、
そもそもネームを描いてみても、面白いものができない可能性が高いと個人的には思っています。
そのため、プロットは比較的じっくりと時間をかけて作ってあげる必要があり、
「そのお話でどんなメッセージを伝えたいのか」、
「どのような要素や展開を入れ込みたいのか」、
「独りよがりになっていないか(読者にわかりやすいか)」、
など考えながらプロットを作っていくと良いでしょう。
迷ったら、周囲の知人や担当編集に相談して考えていくと良いと思います。
セリフやナレーションを決める
続いては、ネームのテキストの部分を埋めて行きましょう。
これは作家さんによりけりなのですが、
人によっては、テキストの部分、
いわゆる「モノローグ」や「ナレーション」、キャラクターの「セリフ」の部分から決めて、
あとでそこに当てはまる絵を入れていくタイプと、
先に描きたいシーンを決めて、
そこにテキストを入れていく2通りのパターンがあるようです。
いずれの場合でも、
セリフやナレーションを入れる場合は、
文字数があまり多くならないように、
多くとも1コマに5行以下に収めることをまずは意識すると良いでしょう。
また、意外と「ナレーション」がないセリフだけの漫画も多いのですが、
「ナレーション」を入れることによって、
読者の理解が深まりますし、表現できる内容がぐっと広がります。
ぜひ「ナレーション」を入れることも気にしてみてください。
編集者に見つけてもらう
最後は担当編集についてもらう方法について解説します。
10年や20年前と違って、
現在は自分の作品を世に発表する機会が非常に多くなりました。
以前は雑誌の連載の限られた枠を争う熾烈な競争だったのですが。
今はSNSやコミティアなどの同人誌の即売会、出版社への持ち込みはもちろん、
各編集部主催の様々な漫画の章も行われています。
同人誌で自分の好きな作品を描いていくというのも、
一つのやり方ではありますが、
「商業出版を目指したい!」という方や「プロの編集に見てもらい、客観的な意見がほしい」という方は、
いかに担当編集に見つけてもらうかを意識する行動を取るのもありかもしれません。
以下で、漫画の編集部に所属している私が、
実際の経験を元に、
「こうしたら編集者の目に留まりやすくなる」とか「担当編集がつきやすくなる」というポイントを、
お伝えしていきます。
SNSに投稿する
まずはSNSに投稿する方法です。
2010年頃まではSNSというものが一般的にあまり普及していなかったので、
自分の作品を世に出す機会は、
雑誌の限られた連載枠を獲得するしか、方法がありませんでした。
ですが、現在は、
XやInstagram、ブログ、Tiktokを始めとして、
様々なSNSや媒体で自ら漫画を投稿し、発信している方々が多くなってきました。
実際に、出版業界の内実から言っても、
SNSで漫画を投稿している方を見つけて、
声をかけ、企画につなげるという流れが非常に多くなってきました。
そのため、もし「漫画を多くの人に見てもらいたい」、
「担当編集についてほしい」、
「商業化したい」と思うなら、
SNSにまずは作品を投稿してみてください。
それはただ「編集者に見つけてもらいやすくなる」というだけではなく、
連載が始まったり、本が出版したり、その後の活動においても、
あなた自身のファンを増やし、
活動を応援してくれる人を増やすことができるということでもあります。
X(旧・Twitter)が初めて投稿するならおすすめの場所です。
ぜひチャレンジしてみてください。
漫画賞に応募する
各社や各編集部主催の「漫画賞」に応募するというのも一つの手です。
調べてみればわかるのですが、
たくさんの編集部が様々なジャンルの漫画賞を行っています。
集英社のジャンプや講談社のマガジンのような、
少年漫画、創作漫画はもちろん、
著者の実際の体験を描いたコミックエッセイや、
ペットの体験をテーマとした漫画まで…
調べれば、自分の描きたいテーマにぴったり合った賞が見つかるかもしれません。
また、そういった賞は「新人賞」のような形で設けられていることが多いため、
案外受賞のハードルは高くなく、
今回ここまでお伝えしてきたようなことを意識すれば、
選考を通過できる可能性も十分にあると思います。
「漫画賞」「漫画 応募」と検索したり、
ご自身が好きな漫画のレーベルまたはジャンルで、
何か公募の賞がないか調べると良いでしょう。
「漫画賞」の良いところは、
大賞や受賞をすると、賞金が出たり、書籍化が確約されたり、
担当編集がついたりするという特徴があり、
もしあなたが漫画を描くうえでこういったことを目指しているのであれば、
メリットしかありません。
コミケ/コミティアに出展する
同人誌の即売会である「コミックマーケット」や「コミティア」に出展するのも、
おすすめです。
「コミックマーケット」、通称「コミケ」は二次創作を中心とした同人誌の即売会で、
一方の「コミティア」は一次創作のものを中心としています。
特に一次創作中心のイベントである「コミティア」は、
出版社の編集部が「出張編集部」としてブースを設置し、
その場で持ち込み原稿を見ていることも多いですし、
編集者が各ブースを回って、
新たな漫画の描き手を探していることも多いです。
ですので、出展することで、
実際に対面で編集の方と巡り合う機会があるイベントなのです。
特に、出張編集部への持ち込みはその場で、
編集者から声がかかることもありますし、
担当編集がついたり、商業化を目指しているのであれば、
トライして損はないと思います。
また、実際に出展をする際に、
ご自身で同人誌をまずは作ってみるのも、
漫画を描きあげて、本を作るという意味では、
貴重な経験になること間違いないので、
ぜひ「これまでやったことがない!」という方は、挑戦してみることをおすすめします。
編集部に直接持ち込む
出版社の編集部に直接持ち込みをする、という方法もあります。
大手出版社の特に、少年漫画の編集部は持ち込みを設けているところもあり、
有名どころだと諫山創先生の『進撃の巨人』は、
集英社のジャンプに最初持ち込まれて、そこでボツとなり、
その後講談社のマガジンに持ち込んだところ、
可能性を見出されて、連載作品となり、現在の大ヒットにつながったそうです。
もちろんすべての編集部で持ち込みが可能なわけではないのですが、
「漫画 持ち込み」と検索すると、
持ち込みが可能な編集部の名前が一覧で出てくるようなので、
現場の編集者に直接アドバイスをもらいたいという場合は、
直接の持ち込みも検討すると良いかもしれません。
その他、大事なこと(画力について)
以上、ここまで述べて来たことを意識すれば、
面白い漫画が作れる可能性が非常に高いと思います。
ですが、最後にもう一つ大事なポイントがあります。
それが「画力」です。
漫画の賞を選考していて、
いつも見ているポイントが「テーマ」と「作家さんの性格」、「作画」の概ね3つで、
どんなに前の二つが優れていて、素敵な物語が描けそうでも
画力が追い付いていないと、見送ってしまうことも多いのです。
一流の漫画家のように、
超絶画力が必要な訳ではないのですが、
商業化するには読者にお金を払ってもらうクオリティをある程度求められるので、
もし「画力」が足りていない…と感じる方はぜひ作画力の向上も合わせて意識してみてください。
まとめ
以上、今回の記事では、
漫画編集の立場から、基本的な漫画の作り方や、
編集者は「こういうところを見ている!」という現場の目線をお伝えしてきました。
いかがだったでしょうか?
いろいろとポイントを挙げたのですが、
まだ漫画を描き始めたばかりの方は、
まずは楽しんで描き続けるというだけでも十分すばらしいことだと思います。
あまり気負い過ぎず、
今回の記事のほんの少しでも何かの参考になりましたら幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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